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大阪高等裁判所 平成2年(行タ)11号 決定

申立人

学校法人奈良学園

右代表者代表理事

伊瀬敏郎

右訴訟代理人弁護士

木下肇

中本勝

土屋明

被申立人

奈良県地方労働委員会

右代表者会長

本家重忠

右指定代理人

佐藤公一

黒瀬昌利

大井督之

笠谷哲也

右当事者間の頭書申立事件について、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

一  本件申立を却下する。

二  本件申立費用は、申立人の負担とする。

理由

一  申立の趣旨

奈良地方裁判所が、同庁昭和六三年(行ク)第六号労働組合法第二七条八項に基づく命令の申立事件について平成元年五月二六日になした別紙(略)記載の緊急命令主文第1項前段のうち、「被申立人は、大阪私学教職員組合の役員が参加するとの理由により、組合員の個別的な労働条件、処遇について補助参加人組合の申し入れた団体交渉を拒否してはならない。」という救済命令に従わなければならないとの部分を取消す。

二  申立の理由

1  申立人は、教育事業を営むことを目的として設立された学校法人である。

大阪私学教職員組合奈良学園分会こと奈良学園教職員組合は、申立人に勤務する教職員で構成される労働組合と称して、申立人を相手方として、被申立人に対し不当労働行為救済の申立をしたところ、被申立人は、昭和六二年一一月一六日別紙(略)記載の救済命令を発した。

2  奈良地方裁判所は、平成元年五月二六日、同庁昭和六三年(行ク)第六号緊急命令申立事件について、別紙(略)記載の緊急命令を発した。

ところが、奈良地方裁判所は、平成二年四月二五日、同庁昭和六二年(行ウ)第七号不当労働行為救済命令に対する取消請求事件について、本件被申立人たる奈良県地方労働委員会が、昭和六二年一一月一六日付でした命令主文一項のうち、「被申立人は、大阪私学教職員組合の役員が参加するとの理由により、組合員の個別的な労働条件、処遇について補助参加人組合の申し入れた団体交渉を拒否してはならない。」との部分を取消す旨の判決をなした。

3  しかるに、奈良学園教職員組合は、右行政訴訟が確定するまでは、緊急命令は有効であるとの極めて形式的な理由で、大阪私学教職員組合(以下「大私教」という。)の役員との連名で団体交渉を求め、拒否した場合には制裁措置が存在する等の恫喝的言動におよんでいる。

4  したがって、申立人としては、緊急命令のうち、一審判決により、誤謬であることが明らかとなった部分だけでも早急に取消されるよう求める次第である。

三  当裁判所の判断

1  一件記録によると、申立理由1、2の事実を認めることができる。

2  ところで、大私教と奈良学園教職員組合との組織上の関係が本部と分会の関係にあるかどうかの点はしばらく置き、一件記録によると、少くとも両者の間には密接な関連性のあることは否定できないものと認めることができる。そして、一件記録によると、申立人は、昭和五八年一二月ころから、申立人の教員である植田嘉寿(以下「植田」という。)の経歴詐称等に関し、奈良学園教職員組合との間で紛争を生じるに至ったこと、大私教は、植田が大私教の役員であり、日教組主催の集会においても採り上げられたことなどもあって、この植田問題について強い関心をもち、又、この植田問題を契機として奈良学園教職員組合と申立人との関係が悪化していることに憂慮していたことなどから、昭和六〇年二月初めころ、申立人に対し、同組合と申立人間の団体交渉に大私教の役員を参加させるように求めたこと、一方、奈良学園教職員組合も、申立人との団体交渉について交渉力を強化するために、申立人に対し、大私教の役員を参加させるように求めたこと、したがって、大私教の役員の参加した奈良学園教職員組合と申立人との間の団体交渉において、大私教と奈良学園教職員組合間に意思の不一致という事態は予想されず、申立人が二重の対応を迫られるといった不都合の生じる事態は考えられないことが認められる。

右事実によれば、大私教は、申立人との団体交渉において、独自の立場で交渉の当事者として関与することを求めているものではなく、奈良学園教職員組合の交渉力を強化するために、同組合と密接な関連を有し、植田問題に関心をもっている立場から、その役員を交渉担当者として参加させるように求めているだけと認められるから、同組合以外の者の参加を認めない慣行の存在等、その他特段の事情の認め難い本件のもとにおいては、申立人と同組合との間の団体交渉における大私教の役員の参加は、容認されなければならないものということができる。そうだとすると、申立人が大私教の役員の参加を理由に同組合との団体交渉を拒否することは労組法七条二号の不当労働行為にあたるものということができるから、本件救済命令の主文第一項中、大私教の役員の参加を理由に団体交渉を拒否してはならない旨の命令は適法であるというべきである。

3  一件記録によると、申立人は、本件救済命令主文第一項中、大私教の参加を理由に団体交渉を拒否してはならない旨の命令に従わないことにより、奈良学園教職員組合との間で、大私教の役員の参加する団体交渉を一切持たないこととし、緊急関係を続けていることが認められるから、本件救済命令の必要性及び緊急性があるものといわなければならない。

4  以上の理由によると、被申立人の本件緊急命令の申立は理由があり、これと同旨の原決定は相当であるから、申立人の本件緊急命令の一部取消の申立は理由がなく、却下すべきものである。

(裁判長裁判官 石田眞 裁判官 福永政彦 裁判官 山下郁夫)

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